外資系日本法人立ち上げのリアルとは? ~株式の交渉から組織的課題まで~

2019年12月、カントリーマネージャの会は「生き方としてのカントリーマネージャ」というテーマで定期イベントを開催しました。イベントレポートを全5回でお届けします。第4回は、これまでの議論を踏まえ、外資系日本法人立ち上げのぶっちゃけトークを語ります。

高橋:ありがとうございます。では、富松さんに同じご質問を聞いてみたいと思います。カントリーマネージャとして、4 社もご経験されていますが、それだけご経験されている中で、外資系日本法人が陥りやすい組織的な課題などに気づきがあれば教えて下さい。

富松:事業が順調に伸びているとき、どんどん人を採用するというのがやっぱり使命なんですけど、そこで実は一歩引いて冷静にみた方が、後々考えると良かったんじゃないかというケースを経験したことがあります。

インドの会社だったのですが、日本での事業がすごく成長していたので、人をどんどん採用していったところ、結局途中で事業の成長が止まるときが出てきてしまった。それも、実は日本の市場ではなく、海外市場で業績の伸びが止まってしまったのです。日本はこれからジャンプという時でした。

キャッシュフローが本社でうまく回らなくなり、いきなり日本オフィスを含むグローバルで閉鎖すると言われたことがあります。新規採用した人が入ってきたばかりなのに、数週間でクビを切ってくれという形になってしまいました。

好調な時こそ周り (国内外) を見ながらしっかり考えた方がいい、慎重になった方がいいということを思いました。

左:富松 敬一朗 氏(メディアマス日本法人)

今は私メディアマスというアメリカ・ニューヨークに本社があるアドテク・IT の会社に勤めているのですが、別に正社員を雇わなくても、どこかの会社と契約して彼らに任せてしまうという手段もあるということですね。契約した会社からスタッフを派遣してもらうということもできます。

そうすることによって、例えばコミッション部分をこれだけ払えばいいといった形でやった方が、実はもっとすごいインパクトが出せるといったように、代理店契約などを活用して、大変なリクルーティングを代替するということが、できるケースがあるんじゃないかと思います。実際、メディアマスの韓国、インド、南米でこのオペレーションをしています。

最後に一つ、日本法人の社内規定とかを整えるといったプロセスがありますよね。私、以前勤めていた Google の規約を持っていまして。確か入社時にもらえるんですよね。そして、別に返さなくてもいいんですよ。

それを新しい会社の本社に提案したことがあります。当時 Google が市場でベンチマークになっていましたので。

今はもっと進歩してると思うんですけど、そのとき、本社は有無を言わずに、退職金の料率だけ少し下げて、あとは真似しようといった展開になりました。

どこから手に入れてもいいですが、そういうベンチマークがあればいいですね。日本の競合会社でもいいと思います。それを持って本社と交渉をつける、そうすれば、業界水準以上は確保できます。

あと、株ですよね。カントリーマネージャを目指す皆さんは、株式はぜひ多く貰ってください。業績を伸ばした時には 通常の 3-5 倍くらい貰うくらいのつもりで仕事をやったら、モチベーションも上がりますよね。

まあ私の場合、紙屑になってしまった株をいくつか持っているのですけど(笑)、それでも夢を買うというところに自分が納得できればチャレンジのしがいがあると思います。

高橋:ありがとうございます。じゃあ井戸さん、宜しくお願いいたします。

高橋 君成 氏(RTB House Japan株式会社)

井戸:会社を立ち上げる時に気を付けたこととして、自分自身の観点と、会社そのものの観点と両方ともあると思います。

自分自身の観点だと、確かに今富松さんおっしゃったように株式に関するところは凄くきっちり決めた方がいいなと思っています。

自分がアンカーに参画したケースをお話します。当時、アンカーがグループ全体としても立ち上がって 1 年半ぐらい。主要メンバーが入社して 1 年も経っておらず、本社に数十人くらいしかいないようなフェーズだったので、ある意味交渉しやすい環境だったという背景はあると思うんですが。

まず、冒頭 (Part1) でお話したように、自分が考えたビジネスプランを説明しに行って、じゃあ一緒にやろうってなったときに、まず社員として入社しろって言われたんですね。で、私は断ったんですよ。いやだと。

日本法人に助言する形で立ち上げたいと言って、入社じゃなくてビジネスパートナーとしてやりたいと話しました。もちろん、こちらは何も出さないので、もろもろのリソース、プロダクトも彼らは持ってますし、サプライチェーンやオペレーションも彼らが持っています。

当然、私がマイノリティの出資側なんですけど、それでも形の上はジョイントベンチャーの形にしてくれと交渉しまして、それを認めてくれないと入社しないと言いました。

私がマイノリティ出資・彼らがマジョリティ出資をして、法人を作ったんですが、日本法人だけで絶対上場はしないので、自分が日本法人の株だけ持っていてもあまり意味はありません。

その際に、私の金融業界での経験が活きました。特定の条件が満たされた場合に、日本法人の株式が親会社の株式にコンバージョン (転換) するという条項を合弁契約書に入れてもらったのです。

左:井戸 義経 氏(アンカー・ジャパン株式会社)

条件を細かく決めていたので、友達の弁護士を最初から巻き込んで、本社ときっちり交渉をしていました。

ドラフトを作っては送って、交渉戦略を彼と相談しながら進めていました。株式が絡む交渉の場数は、金融業界出身の私の方が多かったので、ある程度こちらのペースで交渉を行うことが出来ました。

先方が、うるさいこと言うからまあいいよこれでと (折れました)。最後に調子に乗って、「もうプラス 5% 株式を」と言ったんですが、それはダメだって言われたんですね。ふざけるなって言われて(笑)。

それで引っ込めて妥結したので、実は今、私はもう日本法人の株式は持っていなくて、全てコンバージョン (転換) して Anker 本社の株式になっています。

そこは結構こだわって交渉してですね、決裂寸前までいってもこだわって、ここは絶対譲らないという交渉をしました。

いい形で入れたとしてもまず日本市場で業績を伸ばせないとその株も紙切れになってしまうので、事業そのものと組織をどう伸ばすかっていうところは 1 人目の社員として重い課題として取り組んでいました。

ただ、私たちが幸いだったのは、米国や欧州でアマゾンを中心に事業が伸び始めていたので、どの国でも共通で使える開発や生産の背景ですとか、ストラテジー、セールスをトラックするツール等も社内ででき始めていました。

日本でも、それを使えるアマゾン・ジャパンにチャネルとしてフォーカスすると明確に戦略として決めまして、そこでまず 1 カテゴリーで 1 位になるという非常にシンプルな戦略的ゴールを定めました。

2013 年に日本の事業は始まったんですけど、そこに全勢力を集中して、2014 年にアマゾンジャパンでモバイルバッテリーで 1 位になることができたんですね。

1 位になるために何ができるかっていう逆算で考えました。

ただ、そうはいっても 1 人でできることは限界があるので、メンバーを採用していかなきゃいけないんですけども、それをやるにあたって例えば 2-3 年後アンカー・ジャパンがどういう組織になっているかっていう逆算をしなければいけませんよね。

こういうファンクション (職務機能) がなければいけない、このファンクションは日本法人でやるけれども、このファンクションはヘッドクウォーターでやってもらうっていうのを明確に絵をかきました。

ファンクションの被りとか漏れとかが発生しないようにして、ここは中国の方でやってくれ、日本では各ファンクションのリーダーたちとここからここまではやるから、と言った風に、協業や範囲を決めるところのコミュニケーションには、最初力を注いでいたかなという風に思います。

そのおかげで、明確に日本でやらないこととして、ハードウェアの開発自体は深圳で全部やる。それ以外のところはほとんど全部日本でやっている、という形になりました。

そのときの大きな役割分担の構造は今でも変わらず、続いているという形になります。

高橋:ありがとうございます。お時間の関係で、最後の質問に移りたいと思います。

(つづく)


登壇者情報

Country Manager Year End Party 2019

– 登壇者 –
井戸 義経
アンカー・ジャパン株式会社代表取締役
2002 年東京大学経済学部経営学科卒業。同年ゴールドマン・サックス証券会社に入社し、投資銀行部門にて顧客企業の M&A 取引、資本市場での調達のアドバイザリー業務に従事。その後 2006 年にプライベート・エクイティ投資会社の TPG キャピタルに入社。日本企業への投資ならびにバリューアップに取り組む。2013 年、Anker グループの日本法人を設立し代表に就任。6 年で売上高 100 億円を突破する事業に成長させる。剣道五段。

富松 敬一朗
メディアマス日本法人代表
新卒でP&G マーケティング部に入社、その後ロイター通信社(シドニー駐在)、Citibank、GE キャピタル、20世紀フォックス映画社 (現 Walt Disney Studios)、Google 等で営業・マーケティング責任者を経て、英国、インド発の IT 企業 2 社の日本法人設立、直近は英国 DAZN メディア日本法人代表。日本アカデミー賞、東京インタラクティブ・アドアワード、電通広告賞 等多数受賞。第 1 回 ad tech tokyo 2009 の advisory board member。豪州 #1 マクオーリー経営大学院 MBA 修了。

新宅 暁
Wolt Japan 株式会社マーケティングマネージャ (日本法人 1 号目社員)
Twitter にてダイレクトレスポンス広告の戦略をリードした後、ユニクロ、Apple にてマーケティングに従事。2019 年 11 月フィンランド ヘルシンキをベースにフードデリバリーを展開する Wolt の日本支社に第 1 号社員として入社。

– モデレータ –
高橋君成
RTB House Japan 株式会社Sales Director
外大卒業後、新卒でリクルートに入社。その後アドテク業界に入り、Criteo, Appier を経て 2018 年 1 月よりポーランド発のリターゲティング広告企業 RTB House に日本 1 号社員として参画。参画から 2 年で日本を「RTB House のグローバルで最も成長している市場」にまで牽引。